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大阪高等裁判所 昭和33年(う)417号 判決 1958年7月10日

控訴人 被告人 内堀こと岸政三

弁護人 小西正秀

検察官 門司恵行

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役壱年に処する。

本裁判確定の日から参年間右刑の執行を猶予する。

理由

本件控訴の趣意は、被告人の弁護人小西政秀の提出に係る控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

所論は要するに、原判決は法律の適用を誤つた違法がある。

すなわち、被告人には執行猶予の前科があり、現在その猶予期間中であるから、原審が被告人に対し更に刑の執行を猶予するについては、保護観察に付する旨の言い渡しをすべきであつたのに拘らずこの措置に出でなかつたのは違法である、というに帰する。

よつて按ずるに、当審で適法に取調べた西宮区検察庁森脇事務官の大阪高等検察庁に対する電話要旨によれば、被告人は昭和三二年一二月一七日(昭和三三年一月五日確定)西宮簡易裁判所において窃盗罪により懲役一年(三年間刑の執行猶予)の刑に処せられたことが、明らかであるから、原審は刑の執行猶予期間中の被告人に対し更に刑の執行を猶予する場合には、刑法第二五条ノ二第一項刑事訴訟法第三三三条第二項の規定に従い、必ず刑の言い渡しと同時に保護観察に付することを要するにも拘らず、この措置に出でなかつたのは、所論の如く原審は法律の適用を誤つた違法があり、該違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決はこの点において破棄を免れない。

然しながら、本件につき保護観察に付する言渡をすることができるかどうかにつき考察すかに、元来執行猶予者保護観察制度なるものは、猶予者の更生を目的とするものであり、従つてその利益となるべき立前ではあるけれども、保護観察に付する言渡を受けた者と、然らざる者との間には、刑法第二五条第二項及第二六条の二に見られるように、再度の執行猶予ができるか否かにつき、又執行猶予の取消につき、差異があつて、前者は後者に比し不利益になつているのである。故に単なる執行猶予に加えて保護観察に付する言渡をすることは、これを受ける者にとつては不利益な刑と謂うべきである。ところが本件は被告人の控訴に係り検察官からは控訴の申立がないのであるから、刑事訴訟法第四〇二条の不利益変更禁止の規定の適用を受け、原判決の刑より重い刑を言い渡すことはできないのである。従つて当審としては原判決の前記違法を認めながらも、被告人に対して保護観察に付する言渡をするに由ないものと謂わなければならない。

よつて原判決を破棄することとし、且当審で直ちに判決できるものと認め、刑事訴訟法第三九七条第四〇〇条但書の規定に従い次の通り判決する。

原判示各証拠により原判示事実を認め、これに原判決挙示の各法律並びに刑法第二五条ノ二第一項を適用し、前段説明の如く刑事訴訟法第四〇二条の制限に従い主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 児島謙二 裁判官 畠山成伸 裁判官 本間末吉)

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